大判例

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最高裁判所第三小法廷 昭和32年(オ)178号 判決 1958年8月05日

上告人 因幡材木株式会社

被上告人 広島国税局長

主文

本件上告を棄却する

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人広重慶三郎の上告理由第一点について

論旨は、原判決が本件審査決定書記載の理由は、法人税法三五条五項の理由の附記として十分である旨を判示したのを非難する。しかし、原判決の引用する一審判決によれば、右決定理由には、争点事実を個別的に明示し、それぞれについて全く原処分と同一の認定に達したことが明示されているのであつて、右決定理由をもつて不十分であるとはいえない。所論のように判断の因つて来つた経過過程まで詳記する必要はない。論旨は本件決定理由のような簡単な記載では、上告人が訴を提記するに際し不利益を受けるかの如く主張するのであるが、上告人が法人税法三七条二項によつて原更正の取消を求める訴を提起すれば、同法三八条によつて税務署長は更正の合理的である理由を主張しなければならないのであるから、上告人は不利益を受けることはない。論旨は理由がない。なお論旨は憲法違反を主張するが憲法の如何なる条項に違反するかを明示していないから採用に由ない。

同第二点について。

論旨は鳥取税務署長がした更正による否認金額と被上告人がした棄却決定の金額とが異る旨を主張するのであるが、本件更正に対する上告人の再調査請求も審査請求もともに棄却されているのであつて、換言すれば審査決定は原更正を正当としているのであるから、被上告人と税務署長とで認定金額が異るのではない。審査決定理由は上告人の請求に不服として述べられている点だけについて判断を示しているのであるから、その合計金額が更正に際しての否認金額と異るのはむしろ当然である。論旨は理由がない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 河村又介 島保 垂水克巳)

上告理由

原判決は判決に影響を及ぼすこと明かなる法令の違背ありと認められるにより宜敷破毀の上適正なる裁判を仰かんとするにある。

原判決認定の事実は原判決摘示の如くなるにより之を茲に引用する。

第一点上告人は自昭和廿七年七月一日至廿八年六月卅日営業期間内に於ける確定所得金額を八拾八万七千六百一円として訴外鳥取税務署長(原処分庁)に申告した処同訴外人は之に対し如何なる見解によるのか全然其の理由を示さずして右金額を金弐百七万五千五百円と更正する旨決定した(甲第二号証法人税等の更正決定通知書の通り理由なしに)

上告人は其の更正の理由が那辺にあるのか全然判明しないまゝ更めて詳細に確定申告の内容を解明し且つ更正決定の不当なる所以を上申して再調査の請求をしたが之に対しても亦同訴外人(鳥取税務署長)は(甲第四号証再調査棄却決定書の通り理由として)独断的に『不服の事由についてはたな卸及売上計上洩れ、仕入過大計上等があり理由がない』として上告人の為した此の再調査請求を棄却した。上告人は『たな卸及売上計上洩れ』や『仕入過大計上』なるものが何れにありや又如何なる事由で左様な認定を受けたのか全然納得が出来なかつた。

上告人としては再調査の請求をすれば必ずや訴外人(鳥取税務署長)に於て何等かの調査もし又説明要求があるものと信じ其日の来るのを期待したに不拘其事無くして唐突に請求棄却の通知をして来た、於茲上告人は最後の頼みとして被上告人に対し、本件審査請求を申立てた此の申立をするに際つて上告人は右訴外税務署長が如何なる理由で更正決定をしたか全然之を知るに由なく漸く再調査請求棄却の通知書により『たな卸及売上計上洩れ』『仕入過大計上』等が其原因なること判明したものの何れの項目が何の為めに左様な認定を受けるに至つたのか之を知るに由無かつたので彼此模索して山林買入並に其棚卸評価除外売上、役員賞与、未払金等に関し夫々計算関係並に事由を解明して本件審査の請求をしたのであつた、然るに甲第六号証に見るが如く被上告人も亦訴外鳥取税務署長の棄却決定を認容支持し何れも『原処分は相当である』との判断の結果をのみ記載し原処分が如何なる訳合で相当であるのか其判断の経過を示さずして上告人の審査請求を棄却した、而して被上告人が本件棄却決定に附記したと称する理由書(甲第六号証審査決定理由書と題する書面)なるものによれば被上告人は四項目に付き棄却の処分をしているが其の

(一) 役員賞与に付き参万円を何故に益金処分と認定したか。

(二) 立木仕入に付き六万九千円を如何なる訳で仕入代金の過大評価と認定したか。

(三) 立木の評価に付き柿ケ山、宇波山の立木評価を如何して過少と認定したか。

(四) 売上脱漏に付き何を何人に売却して其売上の何れを脱漏したと謂われるのか。

全然之等の判断の因りて来つた経過を示さず漫然と『原処分は相当である』として上告人の請求を棄却したのである。

然し之は法人税法の解釈を誤つた処置である即ち法人税法は其第三十五条第五項に於て

『……当該各号に定める決定を為し理由を附したる書面により之を当該法人に通知すべき』

旨を規定しているが其附記せらるべき『理由』なるものは判断の結果を指すに非ずして実に其判断の結果の因りて来つた経過過程を意味するものと解せねばならぬ、何となれば法人税法第三十七条、同第三十八条に徴すれば再調査並に審査の各請求棄却の取消又は変更を求める訴に於ては先ず以つて原告(本件に於ける上告人の立場)に於いて其の立証の責任を負うことになつている処其決定が単に判断の結果のみを附記して何れの点が何の故に然るか其経過過程を示さずして可なりとすれば原告としては如何なる点に付き如何なる立証を為すべきか判明しない儘に立証責任を負うと云う不合理が生じ洵に不当である。

加之法人税法第三十五条第五項に於て決定を通知するに付き『理由を附記』した書面を以てすべきことを規定した法意は前敍の如く訴訟の場合を俟つ迄も無く審査請求者の誤解独断無智識等を啓蒙是正し以つて納得した納務を為さしむると共に反面審査請求者に対し不服申立の方向と機会を与え以て行政的救済の方途たらしめんとするにある、果して然りとすれば被上告人が漫然と判断の結果のみを附記して上告人の審査請求を棄却したのは結局『理由』の附記無きに帰し違法である。

上告人は第一審以来之を極力主張して来た。

上告人は税法を無視して又納税を故無く怠るが如き意図は毛頭之を持つていない、正当な納得の行く更正なる限り之を承服するに決して吝かでは無いのである。然るに原審の認容した第一審判決は附記すべき『理由は原告の主張する様な意味での厳格なものが要求されているとは考えられぬ』との独自な見解の下に附記せらるべき『理由の記載程度も結局、本件決定(被上告人の為した審査請求棄却の決定を指す)の具体的性格から裁量せられるべきである』と為し『本件決定は……爾後審査の型を採るから……原処分に誤があるとして指摘せられた不服申立事項に付き……原処分を正当と考えた場合は原処分が相当だと謂うより外にはあり得ない』として民事裁判や刑事裁判の証拠論を例証し以つて上告人の主張を斥けた。

然し法人税法第三十五条第五項の要求する『理由の附記』なるものは原審の解釈する様に処分庁が専恣な独自の解釈を以て其の記載程度を左右し得る様な微温的な規定ではない。

勿論任意規定でも無いのであるから須く法人税法の法意に照し判断の因りて来たりし判断の経過を理由として附記すべきものである。

今日の我法治国の基礎が民主的基盤に築かれている以上総ての法解釈も当に其の理念の上に立つて為されねばならぬ、若し然らずして切捨御免が許されるとせんか之れ全く民をして知らしむべからずとする独裁専制の政治に逆行することになる故に若し法人税法第三十五条第五項の要求する『理由の附記』なるものが原審等の為した解釈とせんか本件法人税法其のものが憲法に違反するの理となり何れよりするも被上告人は固より原審は法人税法第三十五条第五項の解釈を誤つたものと断ぜざるを得ず。

第二点被上告人は上告人の為した審査請求に対し甲第六号証に見るが如く金百拾七万八千六百二拾八円を否認した。処が甲第一号証及同第二号証によれば訴外原処分庁(鳥取税務署長)は上告人の為した所得申告金八拾八万七千六百壱円に対し金弐百七万五千五百円の更正決定をしたので原処分庁は差引金百拾八万七千八百九十九円を否認したことになる故に、再言すれば被上告人の否認額は金百拾七万八千六百弐拾八円なるに対し原処分庁の否認額は金百拾八万七千八百九十九円であつて少額ではあるが被上告人の否認額は原処分庁の夫れに比し金九千弐百七拾壱円だけ少い。

斯くの如き差の生ずるに至つた所以は被上告人が協議団の為した否認額金百拾七万八千六百弐拾八円を認容した結果に外ならぬのであるが此の事実は上告人の為した審査請求に付き被上告人が其の一部を正当として認容したものに外ならぬ。果して然りとすれば被上告人は上告人の為した審査請求に対しては一部棄却の決定は為し得ても全部棄却の決定はあり得ない、夫々に理由を附し認容すべきは認容して一部棄却の決意を為すべきものである。然るに被上告人は事此処に出ずして全部棄却の処置を執つた、被上告人は此の点に於ても違法を累ねている、此違法は決して認容額が僅少だと云う事で看過すべきでは無い原審は此点に付き『本件審査決定は審査請求書に不服とせられた部分に付き判断したに過ぎず』と為し『被上告人は原処分庁の更正決定と異なる金額を認定したものでなく審査請求の目的となつた更正決定を全部是認したのであるから全部棄却の決定が相当である』として上告人の主張を斥けた、然し原審の謂う審査請求の目的となつた更正決定額は金弐百七万五千五百円の内否認額金百拾八万七千八百九十九円であつて金百拾七万八千六百弐拾八円ではない(甲第五号証再調査請求書にも記してある通り上告人の請求額は金八拾八万七千六百壱円であり)而も被上告人は原処分庁の否認額を排斥して新たに金百拾七万八千六百弐拾八円を否認したものである。決して更正決定全部を是認した訳ではない、原審は明かに被上告人の誤つて為した手続を認容して上告人の主張を斥けたが之れ全く法の解釈を誤つた結果である。

前敍の如く法人税法も亦憲法を基礎に立案され且つ憲法に則つて運営されることを要求されている以上行政決定も亦国民の納得の行くものでなければならぬ、夫れには認容すべき部分は認容し棄却すべき部分があるときは理由を附した一部棄却の方法を執るべきである。

敍上二点は何れも判決に影響を及ぼすこと明かなる法令の違背なるにより原判決は当に破毀せらるべきものである。

以上

(注)

一、原告会社は、青色申告法人でないため、更正の理由は附記されていなかつた。

二、原告会社は、更正を不服であるとして再調査請議をしたが、その不服とする事項は

棚卸過大評価、除外売上認定賞与((イ)役員損金処分(ロ)過大評価による仕入金額の否認(ハ)除外売上の役員の所得帰属の推定)であつたが、それを棄却した再調査の決定通知書に附記されていた理由は、

「不服の事由については、棚卸及び売上計上洩れ、仕入過大計上等があり、理由がない」と記載されていた。

三、原告会社は、この再請査決定をなお不服であるとして再調査請求と同様の理由により審査の請求をしたが、請求は理由なしとして棄却された。その決定通知書に附記されていた決定理由は左記のとおりであつた。

1、役員賞与の否認について

損金に計上した取締役副社長米井信次郎及び常務取締役砂川道友に対する賞与一五、〇〇〇円あて計三〇、〇〇〇円を益金処分の賞与として否認した原処分は相当である。

2、立木過大仕入の否認について

取締役米井均から仕入れた立木の代金二二七、〇〇〇円のうち六九、〇〇〇円を過大仕入として否認するとともに同人に対する賞与とした原処分は相当である。

3、立木の過少評価の否認について

柿ケ原山及び宇波山の立木の期末評価額二九四、六二八円だけ不当に過少であるとして否認した原処分は相当である。

4、売上脱漏の否認について

売上金額のうち七八五、〇〇〇円を取締役社長石谷源太郎及び副社長米井信次郎からの借受金としてうち五五二、六〇五円返済した如く仮装しているからこれを否認した原処分は相当である。

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